ALT
オルト
鶴巻育子写真展
作家メッセージ
目を使って仕事をする写真家の自分とは対極にある「見えない、見えづらい世界」を覗いて見たい。そんな好奇心から始まったプロジェクトが「ALT」です。
人は情報の80~90%を視覚から得ていると言われています。取材当初、私はその情報を得ずに生きる視覚障害者の人々の苦労ばかりを想像していました。しかし個人差はあるものの晴眼者となんら変わりない彼らの生き方を目の当たりにしました。また視覚障害と言っても見え方は個人個人異なり非常に複雑で、簡単にカテゴライズできるものではないことを知り、私は知らず知らずのうちに偏見や先入観を持っていた自分に気づきました。
彼らと関わる中で言葉でのやり取りにおける難しさを実感せざるを得ませんでした。しかし当然ですが、相手が晴眼者であってもミスコミュニケーションは起こり得るものです。私は他者との認識のズレに違和感を抱くより、まずは自分の知らない領域に一歩足を踏み入れてみることを優先しました。すると、私ひとりでは辿り着けなかった気づきやアイディアが浮かび、新しい世界が見えた気がしました。
約4年の間に多くの視覚障害者の人々と時間を共有した中で最も興味深かったのは、彼らが頻繁に「みる」という言葉を口にすることでした。私は改めて見ることの意味を考えるようになり、いかに自分の視野が狭いかを思い知る体験をしたのです。
目で見ることが全てではない。
感じることは見ること。
見ることとは何か。
「視覚障害者に興味を持ってくれるのが嬉しい」「面白い形で自分たちの世界を表現してもらいたい」彼らの言葉が支えとなり、この作品を完成することができました。このプロジェクトに協力していただいた方々に心から感謝申し上げます。