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オルト

鶴巻育子写真集

作家メッセージ

1 隣にいる人

2 ※写真はイメージです

3 見ることとは何か

インタビュー 大沢郁恵さん

インタビュー 末棟武虎さん

インタビュー 難波創太さん

プロフィール​

難波創太さん
1968年生まれ。武蔵野美術大学工芸工業デザイン科卒業後、ゲーム制作会社に勤務。2007年仕事帰りにバイクによる交通事故に遭い失明し全盲に。現在は東京・三軒茶屋で「ボディケア・キッチン るくぜん」を経営し盲導犬のピースと暮らす。


時間をパチパチ切って、自分の足跡みたい。
撮影地:三軒茶屋

(鶴巻)今日の撮影はいかがでしたか。音を頼りにシャッターを切ることが多かったでしょうか?

(難波)そうですね。あとは匂いと暖かさとかね、太陽の。それとお店から漏れて来る空気とか。

(鶴巻)難波さんはずっと三軒茶屋に住んでいて、地理がわかっていることは撮影に有利でした?

(難波)たぶんそこにあるはずみたいな。実際それがどう撮れてるかわからないけど、記憶を追っかける感じでしたね。マクドナルドとかハナマサとか昔からありますし、夕方の風景とかだんだん灯りがついてくる感じとか、人の雑踏とか変わらないんじゃないかな。

(鶴巻)難波さんがいきなりハナマサにガンガン入って行った時は驚きました。

(難波)ハナマサみたいなスーパー好きなんですよ。ごちゃっとしてて品物を触って直接確かめられますしね。あんまり三軒茶屋って変わってないと思ってたんですけど、鶴巻さんと歩いていたらちょっとずつ変わってたんだなって思いました。古い団地の建て替えとか、線路脇の唯一土のある道がなくなっていたり。なんか写真を撮るっていうより、鶴巻さんと記憶をなぞっていくみたいな感じでした。ここの屋上(雑居ビルの最上階にあるカフェ)から見ると三角地帯(三軒茶屋にある古い飲み屋街)のところだけべちゃっと低くなってて戦後のドタバタみたいな。その記憶を撮りたかった。思い出があるんですよね。もう前のことだから今どうなっているかわからないけど。

(鶴巻)難波さんはよく美術館で目の見える人と言葉で鑑賞されているそうですが、写真鑑賞することで気づくことってありますか?

(難波)写真って具体的なものが写っているから言葉にしやすいし、作家の視点を追っかけやすいですよね。たぶんね、作家と撮ったものとの関係性がぱっと出ちゃうから誤魔化しにくいんじゃないかな。写真て、写真を撮る前の準備段階があって、撮る瞬間があって、セレクトや編集があって、全部含めて制作活動だとして、きっとシャッターを切る瞬間にははっきりとした意図があると思うんですけど。もしかしたら、最終的に観た人がどう捉えるかという「遊び」の部分で初めて作品の完成になるんじゃないかな。

(鶴巻)わかる!私も以前受けたインタビューで完成は見る人だと話してます。

(難波)以前パントマイムやってたんですけど、パフォーマンスの意図が伝わらないとかお客さんの解釈が違ったりして、観た人が補完して脳の中で最後完成するんだなって思ったことあります。

(鶴巻)決めつけず、見る側に自由度を与えることも必要ですよね。

(難波)僕は仕事柄デザイン畑だったので、きっちり受け取る側の使い方を決めて作っていたんですけど、本当に良いものって作った側の思惑以上の遊べる部分が残ってたりするじゃないですか。そういう懐の深いものが本当はいいものなんだって思います。

(鶴巻)他の視覚障害者の人から聞いた話で、写真鑑賞するワークショップに参加した時、説明された後に想像の中で写真が動き出して自分が監督になって作品を完成させるって言ってました。

(難波)最初はかなりあがいていましたね。耳で聞いて想像したものと実際のものはどうせ違うんだろって思ってたし、どうやって見えている世界を知るかってことを一生懸命やってたんですけど、あんまり意味がなかったですね…入ってきた情報を頼りに結びついたイメージは現実として間違ってない。人の数だけ現実があるって、そう思えるようになってから楽しくなりました。美術って数学と違って正解とかないじゃないですか。別に作者の意図を推測するために観ているわけじゃないし。実際に目が見えててもまったく違う解釈だったりしてもOKな世界なんだなって思えるようになったのは目が見えなくなってからですね。

(鶴巻)見えてる人でも、どこを見ているのかで変わりますからね。

(難波)ある日、目の見える人とスーパーに行ったとき、エイヒレを探してもらう。それがないんです。この棚の3段目右から5番目ってちゃんと指定すると見える。

(鶴巻)見えてる人が見つけられないんだ、ないって決めつけてるんですね。それで、難波さんが見つけるという(笑)

(難波)そう。本当に見えないんですよ。見ていないっていうか、見えない。「ない」って言うんですよ。ないんじゃなくてあるでしょって。しつこくいうと見えてくるって面白いですよね。人間の目って、網膜の段階で情報を選択しちゃうらしいんです。自分にとって必要な情報を強調するようにして脳に届けるらしい。新しい情報も今までにあった情報に近いものにして、なるべくエネルギーを少なくする。サボりたがる脳(笑)ないと思った瞬間に見えなくなる。写真撮る時も、人によって見える、見えないとか不思議ですね。物理的に見える見えないと違う…

(鶴巻)それが私の作品コンセプトなんですよ。

(難波)なるほど!なるほど!ところで写真で思い出したのですが、以前写真家の斎藤陽道さんと会った時のことなんですけど、テーブルに映った揺れるワイングラスの影を僕に教えてくれたんです。彼はいつも光を追いかけているんだなって。そしてこの世界は光で満ちているんだなってすごく感じましてね。影のこと忘れてましたから…影ってどうやっても触れないんだよね。光があって影ができる。影あったなって思い出しましたね。

(鶴巻)影を思い出すって、なんだかポエティックだな…最後に、改めて写真を撮る行為ってどう思いますか。

(難波)時間て巻き戻せないじゃないですか、だからこそシャッターを切る瞬間に価値が生まれるんじゃないかな。永遠に時間を巻き戻せることができたら、シャッター切る意味がなくなっちゃうかも。写真てなんか面白いですね。時間をパチパチ切って、自分の足跡みたいに眺めるっていうか。

(鶴巻)ところで今日の難波さんが撮った写真のセレクトは私がしますよ。

(難波)選んでもらえるのが嬉しいですね。

(鶴巻)勝手にセレクトされるのは嫌じゃないですか。

(難波)僕が撮ったものを鶴巻さんが選ぶ。これってなんか二人羽織みたいで面白いものができるんじゃないかなって期待してます。見れないけど(笑)


斎藤陽道…写真家。1983年、東京都生まれ。2020年から熊本県在住。都立石神井ろう学校卒業。2010年、キヤノン写真新世紀優秀賞。2014年、日本写真協会新人賞。

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